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主観的な内容ばかりなので閲覧注意です。どうでもいいことも多く書いてます。
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 私はケンシロウを愛していますと俺の目を真っ直ぐ見つめてそう告げた、血の繋がった妹の目は今にも泣き出しそうに見えた。俺はそんな艶やかな女の目をした妹を静かに見返して、そうか、と頷く。彼女が俺に何を求めているのかそれで察することはできたけれど、それに従うのは癪だった。それは何だろうか。ラオウに対する友情か、信奉か、ケンシロウよりもラオウが劣るなどと言う妹の言葉を、信じたくなかったのか。
「ならば俺はラオウに付こう」
「兄さん」
 二つの目はそれを留めようとしているのか苦痛で歪んでいる。
「俺が死ぬ姿でも見えるか、ユリア」
 まるで責めるような口調になってしまった自覚はある。ユリアは微かに俯いて、その伏せた瞼をしとどに濡らし、はらりと涙を落とした。黒い柔らかな髪が肩口から零れた。妹でありながら母のような、しかし美しく成長した姿は紛れも無い男の劣情を誘う女のものだ。この妹は、「おんな」の全てを体現している。
「口に出して止めぬところがお前の卑怯な所だな」
 かつて俺達を育てた男は、ユリアには未来が見えると言っていた。それゆえに心を閉ざしたと。一番近くで幼い彼女を見守りながら、俺はそれを知らなかった。いや、本当に見えるのだろうか、未来などという曖昧なものが。それならばこの女が選んだ男というのは結局のところ最後まで生き残る人間であって、はたしてこの女の愛というものが、真に注がれるべき相手なのだろうか。
 俺のそんな身も蓋もない考えを一蹴するようにユリアはひたすら涙を零し、嗚咽を上げるように呻く。
「兄さん・・・・・・兄さんは死んでしまうわ・・・・・・」
「時代の礎として死ぬのなら本望だ」
「狼が犬死にだなんて」
「口が過ぎるぞ、慈母星」
 首の裏側がちりちりと痛む。首輪でもつけられた感覚だった。女の涙が首をぎりぎりと締め上げてくるように感じる。
「泣くな」
「兄さんがラオウのために生きてケンシロウのために死んでも、それが運命ならと、止めずにきたのよ」<BR>
 今だけでも貴方のために泣かせて、とユリアは嘆いた。憐れな女だと詰ったが声は出なかった。彼女の涙を拭うには俺の爪は伸びすぎている。嗚咽の声だけがしばらく響いていた。
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