主観的な内容ばかりなので閲覧注意です。どうでもいいことも多く書いてます。
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丁度己の足元に白黒の球体が転がってきた。その球体がやってきた方向を見ると、小さな人間達がわらわらと走ってやってこようとするのが視界に入る。球を拾い上げると、彼らは揃って足を止めた。びくりと硬直して、まじまじと己を見てくるので、黙ってそれを見返す。複数の人間のうちの一人が、「やべぇよ、凄く睨んでくるよ」とこそこそと隣に居た人間に耳打ちした。私の顔と、私の持つ球を交互に見やり、すみません、と子供が小さく声を上げた。私は黙ってそれを見下ろす。何が目的か分からないので、私はただそいつらが何か言うのを待った。
突然、死角からぬっと出てきた掌が、私の持っていた球を片手で掴んだ。
「何故返さないんだ」
声は苦笑していて震えている。私が振り向くと、予想通り、家康が片手で球を持って、困ったように微笑んでいる。そして私から距離を取りながら様子を伺う小さな人間に、その球を軽く放った。
「すまないな、時間を取らせて。車道に出ないように気をつけて遊ぶんだぞ」
「やったー!」
彼らは逃げ出すように再び公園に走り去る。一人の人間が私を、否、家康を見て、小さく何かを呟き、頭を少しだけ下げた。
「今何を言ったか聞こえたか」
「口の動きからして、ありがとう、だと思うが」
家康はそう言って、いつまで立っているんだ、身体が冷えるのはいけない。早く帰ろう、と私の肩を叩く。私は黙ってそれに従った。空気は依然としてひやりと冷たい。家康の数歩後ろをついて歩き、その短い黒い髪のうなじを睨みながら、私は聞いた。
「お前は人の心が読めるのか」
「何故そうなるんだ?」
「あの球があいつらの物だと何故分かった? 奴らは何も言わなかった」
「言わなくても分かることだってあるだろう。あの子たちはお前が何も言わずに黙ってボールを取ったままだったから、大層困惑していたようだったし、それにお前が睨むから怯えていた」
「言わなければ分からないこともある。もしも奴らがあの球の持ち主でなかったら、窃盗の片棒を担ぐことになる。私はそのリスクを減らそうとしただけだ」
「三成は心配性だな。ワシはあの子たちが悲しむのではないかと怯えていたが」
「貴様は臆病だ」
吐き捨てるように呟けば、そうだ、ワシは臆病だ、と家康は肩を震わせて笑った。
「いつだって怖いものでいっぱいだ」
三叉路についた。私は右に折れる道に足を向け、家康は真っ直ぐ行く道に一歩進んで、ぴたりと足を止めた。
「何だ」
「いや」
家康は肩を竦めて、困ったように、いつものように笑った。吐く息が白い。しかし、目に映る、生きている証のその呼吸の色は、あっという間に霧散した。その末路を目で追って、家康は手を振った。
「それじゃあ、また明日な、三成」
噛み締めるように呟かれたその別れの言葉に、拍子抜けしながら、私もまた、「また、明日」と返す。私が背を向けて数歩歩くと、また、向こうに消えていく足音が聞こえた。私はそこで立ち止まり、少し待った。家康のものである足音が、遠くへ行って、聞こえなくなる。私は数歩歩いて戻り、三叉路の入り口に立った。歩き去っていく家康の、広い背中が見えた。振り返れ、と私は呪った。刑部のように、祈って願って呪って呼んだ。声を出さずに意思を伝えようとした。しかし分かるものは分かると言った家康は、何も気付かず帰っていく。
ついに家康はさらに左側へと折れた。細い路地に家康の姿はもう無かった。私はその誰も居ない、人通りのまったく無い道に一人立って、家康! と叫んだ。口に馴染んだその四文字の音と、響いたその名前だけがあっという間に寒空に消えた。そのまま立ち尽くしたが、家康は道に戻ることはなかった。
言わずとも伝わるものがあるくせに、叫んでも伝わらないものがあるというのは何故だろう。私はいい加減己の帰路につくことにした。何度叫んでも私の悲しみは奴に届くことは無いのだろうか、と思った。何故なら私と奴の歩く道はこのように途中で別れるものであったらしいし、それにあの狸は私の意志よりもあの小さな人間のような、何を悪とも知らぬ輩のために裂く心しか持っていないようだった。
また明日会えば今日のように罵って、そしてその繰り返しだ。あの男のさようならという別れの言葉を、私はもう二度と、聞く日が来ないのではないか、と思い始めていた。しかし、もしもそれを言う日がいつか来るのなら、今度こそそれを言うのは私だ。奴の言う「さよなら」は、あまりにも惨めで未練たらしく、そして聞いているこっちが苦しくなるような声音だったから、もう二度とあんな嫌な気持ちになる音は、聞きたくはなかった。
余談。タイトルの「きみのさよならは聞きたくない」の「さよなら」の部分が半数ほど掠れて汚れて見えなくなってしまうトラブルが起こったので印刷していた時どんだけさよなら拒否してんのwwwと大爆笑だった。
三成の言う家康のさよならってのは、家康赤ルートの「さらばだ三成!」って台詞のことです。言われるぐらいなら言ってやる。それが攻撃的な三成の標準。こういうところが好き。殺されるぐらいなら殺してやるっていう意気込み。それが現代でも、三成のクレバーで狂ってるレベルの沸点の低さは守られてたらいいなぁと思う。
突然、死角からぬっと出てきた掌が、私の持っていた球を片手で掴んだ。
「何故返さないんだ」
声は苦笑していて震えている。私が振り向くと、予想通り、家康が片手で球を持って、困ったように微笑んでいる。そして私から距離を取りながら様子を伺う小さな人間に、その球を軽く放った。
「すまないな、時間を取らせて。車道に出ないように気をつけて遊ぶんだぞ」
「やったー!」
彼らは逃げ出すように再び公園に走り去る。一人の人間が私を、否、家康を見て、小さく何かを呟き、頭を少しだけ下げた。
「今何を言ったか聞こえたか」
「口の動きからして、ありがとう、だと思うが」
家康はそう言って、いつまで立っているんだ、身体が冷えるのはいけない。早く帰ろう、と私の肩を叩く。私は黙ってそれに従った。空気は依然としてひやりと冷たい。家康の数歩後ろをついて歩き、その短い黒い髪のうなじを睨みながら、私は聞いた。
「お前は人の心が読めるのか」
「何故そうなるんだ?」
「あの球があいつらの物だと何故分かった? 奴らは何も言わなかった」
「言わなくても分かることだってあるだろう。あの子たちはお前が何も言わずに黙ってボールを取ったままだったから、大層困惑していたようだったし、それにお前が睨むから怯えていた」
「言わなければ分からないこともある。もしも奴らがあの球の持ち主でなかったら、窃盗の片棒を担ぐことになる。私はそのリスクを減らそうとしただけだ」
「三成は心配性だな。ワシはあの子たちが悲しむのではないかと怯えていたが」
「貴様は臆病だ」
吐き捨てるように呟けば、そうだ、ワシは臆病だ、と家康は肩を震わせて笑った。
「いつだって怖いものでいっぱいだ」
三叉路についた。私は右に折れる道に足を向け、家康は真っ直ぐ行く道に一歩進んで、ぴたりと足を止めた。
「何だ」
「いや」
家康は肩を竦めて、困ったように、いつものように笑った。吐く息が白い。しかし、目に映る、生きている証のその呼吸の色は、あっという間に霧散した。その末路を目で追って、家康は手を振った。
「それじゃあ、また明日な、三成」
噛み締めるように呟かれたその別れの言葉に、拍子抜けしながら、私もまた、「また、明日」と返す。私が背を向けて数歩歩くと、また、向こうに消えていく足音が聞こえた。私はそこで立ち止まり、少し待った。家康のものである足音が、遠くへ行って、聞こえなくなる。私は数歩歩いて戻り、三叉路の入り口に立った。歩き去っていく家康の、広い背中が見えた。振り返れ、と私は呪った。刑部のように、祈って願って呪って呼んだ。声を出さずに意思を伝えようとした。しかし分かるものは分かると言った家康は、何も気付かず帰っていく。
ついに家康はさらに左側へと折れた。細い路地に家康の姿はもう無かった。私はその誰も居ない、人通りのまったく無い道に一人立って、家康! と叫んだ。口に馴染んだその四文字の音と、響いたその名前だけがあっという間に寒空に消えた。そのまま立ち尽くしたが、家康は道に戻ることはなかった。
言わずとも伝わるものがあるくせに、叫んでも伝わらないものがあるというのは何故だろう。私はいい加減己の帰路につくことにした。何度叫んでも私の悲しみは奴に届くことは無いのだろうか、と思った。何故なら私と奴の歩く道はこのように途中で別れるものであったらしいし、それにあの狸は私の意志よりもあの小さな人間のような、何を悪とも知らぬ輩のために裂く心しか持っていないようだった。
また明日会えば今日のように罵って、そしてその繰り返しだ。あの男のさようならという別れの言葉を、私はもう二度と、聞く日が来ないのではないか、と思い始めていた。しかし、もしもそれを言う日がいつか来るのなら、今度こそそれを言うのは私だ。奴の言う「さよなら」は、あまりにも惨めで未練たらしく、そして聞いているこっちが苦しくなるような声音だったから、もう二度とあんな嫌な気持ちになる音は、聞きたくはなかった。
余談。タイトルの「きみのさよならは聞きたくない」の「さよなら」の部分が半数ほど掠れて汚れて見えなくなってしまうトラブルが起こったので印刷していた時どんだけさよなら拒否してんのwwwと大爆笑だった。
三成の言う家康のさよならってのは、家康赤ルートの「さらばだ三成!」って台詞のことです。言われるぐらいなら言ってやる。それが攻撃的な三成の標準。こういうところが好き。殺されるぐらいなら殺してやるっていう意気込み。それが現代でも、三成のクレバーで狂ってるレベルの沸点の低さは守られてたらいいなぁと思う。
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